お辞儀みたいにふつたね。お辞儀したのかもしれないよ。有りがたう/\つてね」
 お母様は、
「お医者にかゝつて、いぢられるのが大嫌ひだつたから、こんな死に方をしたんでせう。でも「みの」にしてみたら、病気になつていぢられるよりどんなにいゝか知れませんね。ほんとにあの犬は病気つてしたことがなかつたから……」と、それ/″\に、それ/″\のことをおつしやつた。
 私は黙つてゐた。
 それでなくてもあふれさうになつてゐる涙が、何か云へばあふれ出しさうであつたから。
 胸に何かつかへてる様に重苦しくて御飯がとほらなかつた。
 蒲団へもぐりこんで、私は短い時間の間におこつた、おそろしく沢山の事を次々と古い思ひ出をたぐる様に考へてゐた。嘘ぢやないかと思つた。昨夜眼がさめてみたら「みの」がワン/\吠えてたつけ、さう云へば四、五日前からいやにうるさく散歩をねだつたつけな。死ぬのを知つてたんぢやないかしらん、などゝ取り止めもないことをつぎ/\と思つてゐた。
 眼をつぶると、原をかけ廻る様子や、私を見つけてとんで来る時の姿や、散歩へ行くときの喜び方や、道をかぎまわつてゐるところ、怒つた顔、うれしい顔、嫌な顔……
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