Resignation の説
森鴎外
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)頗《すこぶ》る
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)一行|差支《さしつかえ》がないように
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地から1字上げ](明治四十二年十二月)
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現代の思想とか、新しい作者の発表している思想とか云うものについて話せというのですか。それは私の立場として頗《すこぶ》る迷惑です。
もし私が現に批評壇に立っている諸君と同一な思想を持っていたなら、別にそれを発表する必要がないわけでしょう。もし変った思想を持っていたなら、それを発表した結果がどうなるでしょうか。
それについては多少の経験を持っています。ついどうかした機会に何か言うことがある。そしてその都度《つど》不愉快極まる反響を聞くのです。
昨今は私が何か云うと、愚痴とか厭味《いやみ》とか云ってからかわれることになっている。それだけで何の効果もない。何の役にも立たない。人に利益は与えずに、自分が不愉快な目に逢うのみです。そんなことは私だってしたくはないのです。
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