現在の文芸界では active に何かしている、重立った諸君は極まっています。田山君とか、島崎君とか、正宗君とか、それから少し後に仲間入をしたような小山内君とか、永井君とか云うような諸君でしょう。それと少し距離のある方面で働いているのは夏目君に接近している二三の人位なものでしょうか。小説以外の作品を出していられる諸君は数えません。
 そこで私がそう云う諸君の下風に立っていて、何だか不平を懐《いだ》いているものとでも認められているらしく見えます。私の言うことを愚痴、厭味と極められている意味はそう云う意味かと思います。
 おおかたこんなことを言えば、即《すなわ》ちそれが厭味だと云うかも知れません。然らば口を閉じるより外はないようなものです。
 所が、私の考えている事は全く違っています。尤もこの考えている事というのが、告白であるかないか、矯飾《きょうしょく》をしていないかという疑問が直ぐに伴って来る。もっと立ち入って云えば、自分では云々と考えていると思っても、それは自ら欺いている、即ち自己のために自己を矯飾しているのかも知れない。そんな風に穿鑿《せんさく》して見ると、むしろ頭からその考えてい
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