耳にせしが、幾ばくもなくして、その風聞の事実なる事を確認したり。都下知名の紳士にして料理通を以て聞ゆる某氏は有名なる某倶楽部の割烹にも満足せざるらしく、昨日午後突然外国より輸入して、同所に於て公衆に示す事となり居る※[#「魚+王の中の空白部に口が四つ」、第3水準1−94−55]を見るや否や、※[#「魚+王の中の空白部に口が四つ」、第3水準1−94−55]の持主の承諾をも経ず、即座にその※[#「魚+王の中の空白部に口が四つ」、第3水準1−94−55]を食《くら》ひ始めたり。初めは生きながら※[#「魚+王の中の空白部に口が四つ」、第3水準1−94−55]の体の柔かき所を選びて、ナイフにて切り取り、漸次に食ひて、終に※[#「魚+王の中の空白部に口が四つ」、第3水準1−94−55]の全体を食ひ尽したり。想ふに某氏は猶飽かずして見せ物師をも食はんとしたるならん。何となれば※[#「魚+王の中の空白部に口が四つ」、第3水準1−94−55]を嗜《たしな》む[#「嗜《たしな》む」は底本では「嗜《たし》む」]ものは人肉をも嗜まざる理由なければなり。元来※[#「魚+王の中の空白部に口が四つ」、第3水準1−9
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