スをさせて上げますの。可笑しいぢやありませんか。も少しで一しよに舞踏会へ来る所でしたの。可笑しいぢやありませんかねえ。」
「それはあなたに迷はされたのです。誰だつてあなたに迷はされないものはありません。あなたは魔女《まをんな》ですね。」
「またお世辞を仰やるのね。わたし為返《しかへ》しをしてよ。お帰りになる前につねつて上げますわ。痛い事よ。それからなんでしたつけ。さうさう。あの宅がきのふいろ/\わたしの事を申しましたのですつて。」
「なに、そんなにいろ/\な事は言はれませんでした。わたしの見た所では、イワン君はおもに人類一般の運命と云ふやうな事を考へてゐるのです。」
「さう。そんな事を幾らでも考へるのが好うございます。もう伺はなくつても沢山。いづれひどく退屈してゐますのね。いつかわたしもちよつと行つて見て遣りませう。事に依つたら、あすでも参つて見ませう。けふは駄目ですわ。わたし頭痛がするのですから。それに沢山見物人が寄つてゐる事でせうね。大勢で、あれがあの人の女房だと云つて、わたしに指ざしをするかも知れませんのね。わたし厭だわ。そんなら又入らつしやいな。晩には宅の所へ入らつしやいますの
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