云つた。「エレナさん。一体今のお詞はたしかにあなたの口から出たのでせうか。どこかの悪党があなたに入智慧をしたのではないでせうか。それに俸給が出なくなる位な事実が、離婚の理由なんぞになるものですか。まあ、考へて御覧なさい。イワン君はあなたの事を思つて病気にもなり兼ねない様子ですよ。気の毒ではありませんか。ゆうべも、あなたの方では舞踏会なんぞへ行つて楽んでゐたのに、イワン君はさう云つてゐました。万已むを得ざる場合には、正妻たるあなたの事だから、一しよに※[#「魚+王の中の空白部に口が四つ」、第3水準1−94−55]の腹の中に住つて貰ふやうにしようかと云つてゐました。それは※[#「魚+王の中の空白部に口が四つ」、第3水準1−94−55]の腹が存外手広で、二人どころではない、三人でもゐられさうだからと云ふのです。」かう云つて、己は序《ついで》だから、昨晩の対話の概略を話して聞かせた。
細君は不思議がつて聞いてしまつて云つた。「おやおや、まあ。あなた真面目でわたしにもあの※[#「魚+王の中の空白部に口が四つ」、第3水準1−94−55]の腹の中へ這ひ込めと仰やるの。あの中に宅と一しよにゐろと仰や
前へ
次へ
全98ページ中80ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
森 鴎外 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング