4−55]を売ると云ふ気はわたしには無いのです。よしやあなたが百万タアレル出すと云つても、わたしは売りません。けふなんぞは見料が百三十タアレル取れたのです。あしたは一万タアレル取れるかも知れない。追々毎日十万タアレルも取れるやうになるかも知れない。いつまでも売るわけには行きませんよ。」
※[#「魚+王の中の空白部に口が四つ」、第3水準1−94−55]の腹の中でイワンが愉快げに笑ひ始めた。
己は腹の立つのを我慢して、成るべく冷静な態度を装《よそほ》つてこの気の変になつたドイツ人に道理を説いて聞かせた。その要点はかうである。お前の思案は好くあるまい。今一度考へ直して見るが好からう。殊に今の計算はどうも事実に背いてゐるやうだ。もし一日に十万タアレルの見料が這入るとすると、四日目には此ペエテルブルクの人民が皆来てしまはなくてはならない。皆来てしまへば、それから先には収入が無くなる筈だ。その上|生《しやう》あるものは神の思召次第で、いつ死ぬるかも知れない。※[#「魚+王の中の空白部に口が四つ」、第3水準1−94−55]だつてどうかしてはじけまいものでもない。中に這入つてゐるイワン君だつて病気
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