るのを遮つて聞いて見た。「それはさうと忘れない内にあなたに聞いて置きたいのですが、もしあの※[#「魚+王の中の空白部に口が四つ」、第3水準1−94−55]を買ひ取るものがあつたら、幾ら位で手放して下さるでせうか。」
己のこの問を発したのを、※[#「魚+王の中の空白部に口が四つ」、第3水準1−94−55]の中にゐるイワンも聞いて、己よりも熱心にドイツ人の答を待つてゐるらしかつた。察するにイワンの心では、ドイツ人に余り低い価《あたひ》を要求して貰ひたくはなかつたゞらう。兎に角己が問を発した跡で、※[#「魚+王の中の空白部に口が四つ」、第3水準1−94−55]の腹の中から、豚のうなるやうな、一種特別な謦咳《しはぶき》が聞えた。
ドイツ人は己の問に答へたくない様子であつた。そんな事を問うて貰ひたくはないと、腹を立てたらしかつた。顔が※[#「火+(世/木)」、第3水準1−87−56]《ゆ》でた鰕《えび》のやうに赤くなつて、彼奴《きやつ》は叫んだ。「わたしが売らうと思はない以上は、誰だつてわたしの所有物を買ひ取る事は出来ませんよ。そこでこの※[#「魚+王の中の空白部に口が四つ」、第3水準1−9
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