て、「時間」も消化することが出来にくいので、その一分一分を精一ぱい熟《よ》く咬み砕いてゐるかとも思はれる。
 ペエテルは腮をずらせ戻して正面を向いて、汁の垂る目を芝生の緑に注いだ。そこには夏服を着た子供が、強い光線の反射のやうに、止所《とめど》なしに緑の叢《むれ》の前を飛び上がつたり又落ちたりしてゐる。それがうるさくてならない。ペエテルは眠りはしない。痩せたクリストフが刈株のやうな腮鬚で領《えり》をこすりながら、ゆつくり何やらを咬んでゐる音と、ペピイががつがと痰を吐きながら、折々余り近くに寄つて来た子供や犬を叱る声とを聞いてゐる。道の遠い所で砂利を掻いてゐる熊手の音も、側を歩く人の足音も、近い所で時計が十二時を打つ音も聞える。ペエテルはもう数へはしない。数へ切れぬ程沢山打てば十二時で午《ひる》だと云ふことを知つてゐる。最後の時計の音と同時に、可哀《かはい》らしい声が耳元で囁く。「おぢいさん、お午。」
 ペエテルは杖に力を入れて起ち上がつて、片手を十になる小娘の明るい色をした髪の上にそつと置く。小娘は此時極まつて、自分の髪の中から枯葉の引つ掛かつたやうな手を摘み出して、それにキスをする。
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