通したので、その飲んだ丈の酒の利足《りそく》を痰唾にして、毎日大地に払ひ戻すのかと思はれる。
ペエテルはペピイの体に異状の無いのを見届けた上、手の甲に載せた腮をずらせて、半分右へ向く。丁度クリストフは手鼻をかんだ処で、そのとばしりが地の透くやうになつた上衣《うはぎ》に掛かつてゐるのを、丁寧にゴチツク形の指で弾いてゐる。クリストフは想像の出来ぬ程衰弱してゐる。ペエテルもまだ偶《たま》には物を不思議がることがあるので、一体この痩せ細つたクリストフがどうして生涯のうちに体のどこかを折つてしまはずに、無事で通つたかと不思議がるのである。ペエテルの観察した所では、このクリストフと云ふ男はひよろ長い枯木のやうなもので、それが頸と足首との二箇所で丈夫な杙《くひ》に縛り附けてあるのである。併しクリストフは自分の体にかなり満足してゐる。そして此瞬間にげつぷを一つした。これは中心で満足してゐる印とも胃の悪い印とも見ることが出来る。それと同時にクリストフは歯の無い口で絶えず何か噛んでゐる。上下《うへした》の唇は此運動に磨り耗らされて薄くなつてゐるかと思はれる。又推察を逞くして見れば、此男は胃に力が無くなつ
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