。己もそこへ胡座《あぐら》を掻《か》いて里芋の選分《よりわけ》を遣っ附けた。ところが己はちびでも江戸子だ。こんな事は朝飯前だ。外《ほか》の餓鬼が笊《ざる》に一ぱい遣るうちに、己は二はい遣るのだ。百姓|奴《め》びっくりしやぁがった。そして言草《いいぐさ》が好いや。里芋の選分《えりわけ》は江戸の坊様に限ると抜かしやぁがる。」
「そのうち、もう江戸へ帰っても好さそうだというので、お袋と一しょに帰って来た。兄きは今の戸山学校の処に押し籠《こ》められていたものだ。お袋は早く兄きが内へ帰られるようにというので、小さい不動様の掛物を柱に掛けて、その前へ線香を立てて、朝から晩まで拝んでいた。」
「そこへ兄きがひょっこり帰って来た。お袋が馬鹿に喜んで、こうして毎日拝んだ甲斐《かい》があると云って不動様の掛物の方へ指ざしをしたのだ。そうすると、兄きは妙な奴さ。ふうん、おっ母さんはこんな物を拝んだのですかと云って、ついと立って掛物の前に行って、香炉に立ててある線香を引っこ抜くのだ。己はどうするかと思って見ていたよ。そうすると、兄きは線香の燃えている尖《さき》を不動様の目の所に追っ附けて焼き抜きゃがるのだ。片
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