っ方が焼穴になったら、また片っ方へ押っ附けて焼き抜きゃあがるのだ。とうとう両方共焼穴にしてしまやぁがった。」
「兄きは妙な奴だったよ。それ何とか云ったっけ。うん、田口|卯吉《うきち》というのだ。あれなんぞが友達だったのだ。旧思想の破壊というような事に、恐ろしく力瘤《ちからこぶ》を入れていたのだな。不動様の罰だか、親の罰だか、知らねえが、間もなく病気になって死んじまやぁがった。」
「まあ言って見れば、Fanatiker《ファナチィケル》 というような人間だったのだな。古くなったがらくたを取り片附けなけりゃあならない時代には、あんな焼けな人間も道具かも知れない。兄きなんぞも、廻《めぐ》り合せでは大きい為事《しごと》をしたのかも知れねえんだよ。」
「己なんぞも西洋の学問をした。でも己は不動の目玉は焼かねえ。ぽつぽつ遣って行くのだ。里芋を選《よ》り分けるような工合に遣って行くのだ。兄きなんぞの前へ里芋の泥だらけな奴なんぞを出そうもんなら、かます籠《かご》め百姓の面《つら》へ敲《たた》き附けちまうだろうよ。」
「己は化学者になって好かったよ。化学なんという奴は丁度己の性分に合っているよ。酸素や水
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