胡坐《あぐら》を掻《か》いて、大きい剛《こわ》い目の目尻《めじり》に皺《しわ》を寄せて、ちびりちびり飲んでいる。抜け上がった額の下に光っている白目|勝《がち》の目は頗《すこぶ》る剛い。それに皺を寄せて笑っている処がひどく優しい。この矛盾が博士の顔に一種の滑稽《こっけい》を生ずる。それで誰でも博士の機嫌の好い時の顔に対するときは、微笑を禁じ得ないのである。
 誰やらが、樺太のテレベン油は非常な利益になりそうで、始て製造を試みた何某の着眼は実にえらいという評判だと云うと、黙って酒を飲んでいた博士が短い笑声を洩《もら》した。
「あれか。あれは樺太へ立つ前に己《おれ》の処へ来たから、己が気を附けて遣《や》ったのだ。」
 一同耳を欹《そばだ》てた。この席にいるだけのものは、皆博士が人の功を奪うような人でないことを知っている。それだから、皆博士のこの詞《ことば》に信を置くのである。博士は再び無邪気らしい、短い笑声を洩《もら》して語り続けた。
「あればかりではないよ。己の処へは己の思付を貰《もら》いに来る奴が沢山あるのだ。むつかしく云えば落想とでも云うのかなあ。独逸《ドイツ》語なら Einfaell
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