理学士なんぞが居残って、燗《かん》の熱いのをと命じて、手あきの女中達大勢に取り巻かれて、暫《しばら》く一|夕《せき》の名残を惜んでいる。
花房《はなぶさ》という、今年卒業して製造所に這入《はい》った理学士に、児髷《ちごまげ》に結った娘が酌をすると、花房が顧みながら云った。
「何だ。お前の袖《そで》からは馬鹿に好《い》い※[#「均のつくり」、第3水準1−14−75]《におい》がするじゃあないか。何を持っているのだ。」
「これなの。」
娘が絹のハンケチを取り出した。
「それだそれだ。※[#「均のつくり」、第3水準1−14−75]で思い出したが、ここの内に丁度お前のような薫《かおる》という子がいたが、あれはどうした。」
「薫さんはお内へ帰りましたの。」
「内は何だい。」
「お医者さんですわ。」
「おお方|誰《たれ》かが一旦《いったん》内へ帰して置いて、それからお上《かみ》さんにするというようなわけだろう。」
「知りませんわ。」
こんな話をしているうちに、聯想《れんそう》は聯想を生んで、台湾の樟脳《しょうのう》の話が始まる。樺太《からふと》のテレベン油の話が始まるのである。
増田博士は
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