素は液体にはならねえという。ならねえという間はその積りで遣っている。液体になっても別に驚きゃあしねえ。なるならなるで遣っている。元子《げんし》は切ったり毀《こわ》したりは出来ねえ。Atom《アトオム》 は atemnein《アテムネイン》 で切れねえんだという。切れねえという間はその積りで遣っている。切れたって別に驚きゃあしねえ。切れるなら切れるで遣っている。同じ江戸子でも、己は兄きのような Fanatiker《ファナチィケル》 とは違うんだ。どこまでもねちねちへこまずに遣って行くのも江戸子だよ。ああ馬鹿に饒舌《しゃべ》ったな。もう何時だろう。」
花房は小さい金時計を出して見た。
「十二時です。」
「そうか。諸君は車が待たせてあるから好いが、己はぐずぐずすると電車に乗りはぐれる。さあ、行こう行こう。」
[#地から1字上げ](明治四十三年二月)
底本:「普請中 青年 森鴎外全集2」ちくま文庫、筑摩書房
1995(平成7)年7月24日第1刷発行
底本の親本:「筑摩全集類聚版森鴎外全集」筑摩書房
1971(昭和46)年4月〜9月刊
入力:鈴木修一
校正:mayu
2001年7月31日公開
2005年11月16日修正
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