学にいた時最も恐怖すべき高等数学の講義を聴いた時間よりも長かった。それを耐忍したのだから、私は自ら満足しても好いかと思う。
 ようよう物語と同じように節を附けた告別の詞《ことば》が、秋水の口から出た。前列の中央に胡坐《あぐら》をかいていた畑を始として、一同拍手した。私はこの時|鎖《くさり》を断たれた囚人の歓喜を以て、共に拍手した。
 畑等が先に立って、前に控所であった室の隣の広間をさして、廊下を返って往く。そこが宴会の席になっているのである。
 私は遅れて附いて行く時、廊下で又|鼠頭魚《きす》に出逢った。
「大変ね」と女は云った。
「何が」と真面目《まじめ》な顔をして私は問いかえした。
「でも」と云ったきり、噴き出しそうになったのを我慢するらしい顔をして、女は摩《す》れ違った。
 私は筵会《えんかい》の末座に就いた。若い芸者が徳利の尻を摘《つ》まんで、私の膳の向うに来た。そして猪口《ちょく》を出した私の顔を見て云った。
「面白かったでしょう」
 大人か小児《こども》に物を言うような口吻《こうふん》である。美しい目は軽侮、憐憫《れんみん》、嘲罵《ちょうば》、翻弄《ほんろう》と云うような、
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