木精
森鴎外

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)巌《いわ》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)丁度|午過《ひるすぎ》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「虫+車」、第3水準1−91−55]《こおろぎ》が
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 巌《いわ》が屏風《びょうぶ》のように立っている。登山をする人が、始めて深山薄雪草《みやまうすゆきそう》の白い花を見付けて喜ぶのは、ここの谷間である。フランツはいつもここへ来てハルロオと呼ぶ。
 麻のようなブロンドな頭を振り立って、どうかしたら羅馬《ロオマ》法皇の宮廷へでも生捕《いけど》られて行きそうな高音でハルロオと呼ぶのである。
 呼んでしまってじいっとして待っている。
 暫《しばら》くすると、大きい鈍いコントルバスのような声でハルロオと答える。
 これが木精《こだま》である。
 フランツはなんにも知らない。ただ暖かい野の朝、雲雀《ひばり》が飛び立って鳴くように、冷たい草叢《くさむら》の夕《ゆうべ》、※[#「虫+車」
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