高音になっているのである。
呼んでしまって、じいっとして待っている。
暫くしてもう木精が答える頃だなと思うのに、山はひっそりしてなんにも聞えない。ただ深い深い谷川がごうごうと鳴っているばかりである。
フランツは久しく木精と問答をしなかったので、自分が時間の感じを誤っているかと思って、また暫くじいっとして待っていた。
木精はやはり答えない。
フランツはじいっとしていつまでもいつまでも待っている。
木精はいつまでもいつまでも答えない。
これまでいつも答えた木精が、どうしても答えないはずはない。もしや木精は答えたのを、自分がどうかして聞かなかったのではないかと思った。
フランツは前より大きい声をしてハルロオと呼んだ。
そしてまたじいっとして待っている。
もう答えるはずだと思う時間が立つ。
山はひっそりしていて、ごうごうという谷川の音がするばかりである。
また前に待った程の時間が立つ。
聞こえるものは谷川の音ばかりである。
これまではフランツはただ不思議だ不思議だと思っていたばかりであったが、この時になって急に何とも言えない程心細く寂しくなった。譬《たと》えばこれま
前へ
次へ
全7ページ中3ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
森 鴎外 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング