ころに許したまふなるべし。イイダといふ姫は丈《たけ》高く痩肉《やせじし》にて、五人の若き貴婦人のうち、この君のみ髪黒し。かの善くものいふ目《まみ》をよそにしては、外の姫たちに立ちこえて美しとおもふところもなく、眉《まゆ》の間にはいつも皺《しわ》少しあり。面のいろの蒼《あお》う見ゆるは、黒き衣のためにや。
 食終りてつぎの間にいづれば、ここはちひさき座敷《ザロン》めきたるところにて、軟き椅子《いす》、「ゾファ」などの脚《あし》きはめて短きをおほく据《す》ゑたり。ここにて珈琲《カッフェー》の饗応《もてなし》あり。給仕のをとこ小盞《こさかずき》に焼酎《しょうちゅう》のたぐひいくつか注《つ》いだるを持《も》てく。あるじの外には誰も取らず、ただ大隊長のみは、「われ一個人にとりては『シャルトリョオズ』をこそ、」とて一息に飲みぬ。この時わが立ちし背のほの暗きかたにて、「一個人、一個人」とあやしき声して呼ぶものあるに、おどろきて顧《かえり》みれば、この間の隅にはおほいなる鍼《はり》がねの籠《かご》ありて、そが中なる鸚鵡《おうむ》、かねて聞きしことある大隊長のこと葉をまねびしなりけり。姫たち、「あな生憎
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