みあし》附きてゆけば、「かしこなる陶物《すえもの》の間《ま》見たまひしや、東洋産の花瓶《はながめ》に知らぬ草木鳥獣など染めつけたるを、われに釈《と》きあかさむ人おん身の外《ほか》になし、いざ、」といひて伴ひゆきぬ。
ここは四方《よも》の壁に造付けたる白石の棚に、代々《よよ》の君が美術に志ありてあつめたまひぬる国々のおほ花瓶、かぞふる指いとなきまで並べたるが、乳《ち》の如く白き、琉璃《るり》の如く碧《あお》き、さては五色まばゆき蜀錦《しよっきん》のいろなるなど、蔭になりたる壁より浮きいでて美《うる》はし。されどこの宮居《みやい》に慣れたるまらうどたちは、こよひこれに心留むべくもあらねば、前座敷にゆきかふ人のをりをり見ゆるのみにて、足をとどむるものほとほとなかりき。
緋《ひ》の淡き地におなじいろの濃きから草織出したる長椅子に、姫は水いろぎぬの裳のけだかきおほ襞《ひだ》の、舞の後ながらつゆ頽《くず》れぬを、身をひねりて横ざまに折りて腰掛け、斜《ななめ》に中の棚の花瓶を扇の尖《さき》もてゆびさしてわれに語りはじめぬ。
「はや去年《こぞ》のむかしとなりぬ。ゆくりなく君を文づかひにして、ゐや申
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