族広間の上のはてに往《ゆ》き着きたまいて、国々の公使、またはその夫人などこれを囲むとき、かねて高廊の上《え》に控えたる狙撃連隊《そげきれんたい》の楽人がひと声鳴らす鼓とともに「ポロネエズ」という舞はじまりぬ。こはただおのおの右手《めて》にあいての婦人の指をつまみて、この間をひとめぐりするなり。列のかしらは軍装したる国王、紅衣のマイニンゲン夫人をひき、つづいて黄絹の裙引衣《すそひきごろも》を召したる妃にならびしはマイニンゲンの公子なりき。わずかに五十|対《つい》ばかりの列めぐりおわるとき、妃は冠《かんむり》のしるしつきたる椅子に倚《よ》りて、公使の夫人たちをそばにおらせたまえば、国王向いの座敷なるかるた卓《づくえ》のかたへうつりたまいぬ。
 このときまことの舞踏はじまりて、群客《ぐんかく》たちこめたる中央の狭きところを、いと巧みにめぐりありくを見れば、おおくは少年士官の宮女たちをあい手にしたるなり。わがメエルハイムの見えぬはいかにとおもいしが、げに近衛ならぬ士官はおおむね招かれぬものをと悟りぬ。さてイイダ姫の舞うさまいかにと、芝居にて贔屓《ひいき》の俳優《わざおぎ》みるここちしてうち護《
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