が肘《ひじ》に指さきかけてかえりしが、うちとけたりとおもうさまも見えず。
メエルハイムはわれに向いて、「いかに、きょうの宴おもしろかりしや」と問いかけて答を待たず、「われをも組に入れたまえ」と群れのかたへ歩みよりぬ。姫たちは顔見あわせて打ち笑い、「あそびにははや倦《う》みたり、姉ぎみとともにいずくへか往きたまいし」と問えば、「見晴らしよき岩角わたりまでゆきしが、このピラミイドには若《し》かず、小林ぬしは明日わが隊とともにムッチェンのかたへ立ちたもうべければ、君たちの中にて一人塔のいただきへ案内《あない》し、粉ひき車のあなたに、汽車の煙《けぶり》見ゆるところをも見せたまわずや」といいぬ。
口|疾《と》きすえの姫もまだなんとも答えぬ間に、「われこそ」といいしは、おもいもかけぬイイダ姫なり。ものおおくいわぬ人の習いとて、にわかに出だししことばとともに、顔さと赤めしが、はや先に立ちていざのうに、われはいぶかりつつもしたがい行きぬ。あとにては姫たちメエルハイムがめぐりに集まりて、「夕餉《ゆうげ》までにおもしろき話一つ聞かせたまえ」と迫りたりき。
この塔は園に向きたるかたに、くぼみたる階をつ
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