ろう。この辺まで入り込んでみれば、ますます釘《くぎ》を打つ音や手斧《ちょうな》をかける音が聞えてくるのである。
 梯子を登るあとから給仕がついて来た。どの室かと迷って、うしろをふりかえりながら、渡辺はこういった。
「だいぶにぎやかな音がするね」
「いえ。五時には職人が帰ってしまいますから、お食事中騒々しいようなことはございません。しばらくこちらで」
 さきへ駈け抜けて、東向きの室の戸をあけた。はいってみると、二人の客を通すには、ちと大きすぎるサロンである。三所に小さい卓がおいてあって、どれをも四つ五つずつ椅子《いす》が取り巻いている。東の右の窓の下にソファもある。そのそばには、高さ三尺ばかりの葡萄《ぶどう》に、暖室で大きい実をならせた盆栽がすえてある。
 渡辺があちこち見廻していると、戸口に立ちどまっていた給仕が、「お食事はこちらで」といって、左側の戸をあけた。これはちょうどよい室である。もうちゃんと食卓がこしらえて、アザレエやロドダンドロンを美しく組み合せた盛花《もりばな》の籠《かご》を真中にして、クウウェエルが二つ向き合せておいてある。いま二人くらいははいられよう、六人になったら少
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