よ。石がごろごろしていて歩きにくいのですもの」
後《おく》れ先立つ娘の子の、同じような洗髪を結んだ、真赤な、幅の広いリボンが、ひらひらと蝶《ちょう》が群れて飛ぶように見えて来る。
これもお揃《そろい》の、藍色《あいいろ》の勝った湯帷子《ゆかた》の袖《そで》が翻《ひるがえ》る。足に穿《は》いているのも、お揃の、赤い端緒《はなお》の草履である。
「わたし一番よ」
「あら。ずるいわ」
先を争うて泉の傍《そば》に寄る。七人である。
年は皆十一二位に見える。きょうだいにしては、余り粒が揃っている。皆美しく、稍々《やや》なまめかしい。お友達であろう。
この七|顆《か》の珊瑚《さんご》の珠《たま》を貫くのは何の緒か。誰《たれ》が連れて温泉宿には来ているのだろう。
漂う白雲の間を漏れて、木々の梢を今一度漏れて、朝日の光が荒い縞《しま》のように泉の畔《ほとり》に差す。
真赤なリボンの幾つかが燃える。
娘の一人が口に銜《ふく》んでいる丹波酸漿《たんばほおずき》を膨《ふく》らませて出して、泉の真中に投げた。
凸面をなして、盛り上げたようになっている水の上に投げた。
酸漿は二三度くるくると
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