る。一体長官が此演説のやうな趣意の事を言つたのを、プラトンはこれまで聞いたことがない。長官はかう云つた。新聞紙は一の権威である。従来他の地方で発行してゐる新聞紙が、社会に利益を与へたことは非常である。先づこんな風に称讃するのを、プラトンは聞いてゐて、なる程「記者」諸君といふものは、そんなにえらいものか、就中《なかんづく》編輯長ミハイル・イワノヰツチユ君はそんな大人物かと、転《うた》た景慕の念に勝《た》へなかつた。さて此ヘロルド新聞も従来他の地方に行はれてゐる、有益なる新聞と比肩するに至らんことを希望すると云ふとき、ふいとプラトンが気が附くと、長官は自分の顔を見てゐたのである。プラトンは慌てゝ、何か自分の服装に間違つた処でもないかと、自分の体を偸《ぬす》み視たが、なんにも間違つてはゐない。そのうち長官の考が分かつた。長官は突然きつとプラトンと顔を見合せて、かう云つた。
「最後に一|言《げん》附け加へて置きたい事がある。兎角我国では、検閲官は新聞紙の敵だと云ふ想像が伝播せられてゐる。諸君。此の如きは時代精神と背馳してゐます。既に過去の観念に属してゐます。総ての進歩的思想の人が、新聞紙の良友
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