ふのである。
地方には副長官といふものがある。併し現に此職にゐる人は断えず旅行してゐる。冬はクリムにゐる。夏はカウカズスにゐる。旅行してゐない時はきつと病気である。そこで新聞紙の検閲官の役を、最古参の参事官即ちプラトンが担任することになつた。
さて発行認許がいよ/\下がつたと云ふことになると、市中のものが讙呼《くわんこ》して喜んだ。道に逢ふものが祝賀を言ひ交してゐる。これからは市の生活が一変するだらうと思つたのである。大通りの家に金めつきの看板が掛かつて、それに「ヘロルド編輯局」と書いてある。初号を出す時には、例の如く会堂でお祭をした。新聞に関係のある人達が大勢集つて祈祷をして、長官の万歳を唱へた。編輯長以下新聞社員一同これに和した。プラトンも臨席してゐたが、誰も構つてくれないので、頗る不平であつた。長官が演説をした。華やかな、山のある演説であつたので、一同拍手して、心から敬服した。プラトンも拍手した。併しヂアコヌスの背後《うしろ》で、余り際立たないやうに、謂《い》はば二本指を打ち合せるやうな拍手をしたのである。それは拍手なんぞをして、長官が喜ぶか、おこるか、分からなかつたからであ
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