をした。そして云うには、ことしの五月一|日《じつ》に、エルリングは町に手紙をよこして、もう別荘の面白い季節が過ぎてしまって、そろそろお前さんや、避暑客の群《むれ》が来られるだろうと思うと、ぞっとすると云ったと云うのである。
「して見ると、あなたの御贔屓《ごひいき》のエルリングは、余りお世辞はないと見えますね。」
「それはそうでございます。お世辞なんぞはございません。」こう云っておばさんは笑った。
己にはこの男が段々面白くなって来た。
その晩十時過ぎに、もう内中のものが寐《ね》てしまってから、己は物案じをしながら、薄暗い庭を歩いて、凪《な》いだ海の鈍い波の音を、ぼんやりして聞いていた。その時己の目に明りが見えた。それはエルリングの家から射《さ》していたのである。
己は直ぐにその明りを辿《たど》って、家の戸口に行って、少し動悸《どうき》をさせながら、戸を叩いた。
内からは「どうぞ」と、落ち着いた声で答えた。
己は戸を開けたが、意外の感に打たれて、閾の上に足を留《と》めた。
ランプの点《つ》けてある古卓《ふるづくえ》に、エルリングはいつもの為事衣《しごとぎ》を着て、凭《よ》り掛か
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