に接している。カツテガツトの波が岸を打っている。そこを散歩して、己は小さい丘の上に、樅《もみ》の木で囲まれた低い小屋のあるのを発見した。木立が、何か秘密を掩《おお》い蔽《かく》すような工合《ぐあい》に小屋に迫っている。木の枝を押し分けると、赤い窓帷《カアテン》を掛けた窓硝子《まどがらす》が見える。
家の棟に烏《からす》が一羽止まっている。馴《な》らしてあるものと見えて、その炭のような目で己をじっと見ている。低い戸の側《そば》に、沢《つや》の好《い》い、黒い大きい、猫が蹲《うづくま》って、日向《ひなた》を見詰めていて、己が側へ寄っても知らぬ顔をしている。
そこへ弦《つる》のある籐《と》の籠《かご》にあかすぐりの実を入れて手に持った女中が通り掛かったので、それにこの家は誰が住まっているのだと問うた。
「エルリングさんの内です」と、女中が云った。さも尊敬しているらしい調子であった。
エルリングに出逢《であ》って、話をし掛けた事は度々あったが、いつも何か邪魔が出来て会話を中止しなくてはならなかった。
ある晩波の荒れている海の上に、ちぎれちぎれの雲が横《よこた》わっていて、その背後に日が
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