に興味を感じて来たらしい。
「さあ。其時すぐにはわたしも、どんな様子だと、すぐには思ひ浮べることが出来ませんでした。わたしには只目の前に其女の唇がちらついてゐました。そこでわたしは兎に角立ち上がつて、跡に附いて行きました。もうへツケル先生の事も猩々の事も忘れてゐたのですね。矢つ張人間は人間同士の方が一番近い間柄なのです。道の行止まりまで往くと、尼さん達はこつちへ引き返して来ます。わたしは体がぶるぶる震え出したので、そこのベンチに掛けて、二人を遣り過しました。わたしは年を取つた尼さんの方はちつとも見ないで、只若い方をぢつと見詰めてゐました。暗示を与へると云ふ風に見たのです。するとその若い尼さんが上瞼を挙げてわたしを見ました。わたしを見たのですね。兄いさん。クツケルツケルツク。クツケルツケルツク。」
「それはなんだい。」兄は心配らしく問うた。
「それですか。歓喜の声です。偉大な感情を表現するには、原始的声音を以てする外ありません。余計な事を言ふやうですが、これもダアヰニスムの明証の一つです。兄いさん。想像して見て下さい。尼さんの被《かぶ》る白い帽子の間から、なんとも云へない、可哀らしい顔が
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