二人の友
森鴎外

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)豊前《ぶぜん》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)大言|荘語《そうご》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「糸+樔のつくり」、第4水準2−84−55]車《いとぐるま》
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 私は豊前《ぶぜん》の小倉《こくら》に足掛四年いた。その初《はじめ》の年の十月であった。六月の霖雨《りんう》の最中に来て借りた鍛冶町《かじまち》の家で、私は寂しく夏を越したが、まだその夏のなごりがどこやらに残っていて、暖い日が続いた。毎日通う役所から四時過ぎに帰って、十畳ばかりの間《ま》にすわっていると、家主《いえぬし》の飼う蜜蜂が折々軒のあたりを飛んで行く。二台の人力車がらくに行き違うだけの道を隔てて、向いの家で糸を縒《よ》る※[#「糸+樔のつくり」、第4水準2−84−55]車《いとぐるま》の音が、ぶうんぶうんと聞える。糸を縒っているのは、片目の老処女で、私の所で女中が宿に下がった日には、それが手伝に来
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