の約束は出来ない。それで好いかと、私は云った。
F君は私の詞《ことば》を聞いて、少し勝手が違うように、予期に反したように感じたらしかったが、とにかく同意した。多分君は私が許諾するか、拒絶するかと思っていただろう。それに私の答は許諾でもなければ、拒絶でもなかったから、君のためには意外であったかと思われる。とにかく君は、格別|難有《ありがた》がる様子もなく、私に同意した。
私は使を遣って下役の人を呼んで、それに用事を言い含めた。そしてF君を連れて、立見《たちみ》と云う宿屋へ往かせた。立見と云うのは小倉停車場に近い宿屋で、私がこの土地に著《つ》いた時泊った家である。主人は四十を越した寡婦《かふ》で、狆《ちん》を可哀がっている。怜悧《れいり》で、何の話でも好くわかる。私はF君をこの女の手に托したのである。
――――――――――――
私がF君に多少の心当があると云ったのは、丁度その頃小倉に青年の団体があって、ドイツ語の教師を捜していたからである。そこで早速その団体の世話人に話して、君を聘《へい》することにさせた。立見の勘定は私が払わなくても好いことになった。
F君は殆《ほと
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