領な顔をしてこんな事を言った。
「そうでないよ。君は科学科学と云っているだろう。あれも法なのだ。君達の仲間で崇拝している大先生があるだろう。Authoritaeten《アウトリテエテン》 だね。あれは皆仏なのだ。そして君達は皆僧なのだ。それからどうかすると先生を退治しようとするねえ。Authoritaeten《アウトリテエテン》−Stuermerei《スチュルメライ》 というのだね。あれは仏を呵《か》し祖を罵《ののし》るのだね。」
寧国寺さんは羊羹を食べて茶を喫《の》みながら、相変わらず微笑している。
五
富田は目を据えて主人を見た。
「またお講釈だ。ちょいと話をしている間にでも、おや、また教えられたなと思う。あれが苦痛だね。」一寸《ちょっと》顔を蹙《しか》めて話し続けた。
「なるほど酒は御馳走《ごちそう》になる。しかしお肴《さかな》が饂飩と来ては閉口する。お負にお講釈まで聞せられては溜まらない。」
主人はにやにや笑っている。「一体仏法なぞを攻撃しはじめたのは誰《たれ》だろう。」
「いや。説法さえ廃《よ》して貰われれば、僕も謗法《ぼうほう》はしない。だがね、君、
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