たつ》、物として相容《あひい》れざることなく、事として取らざることなく、其仁慈化育の心、天下と異なることなきなり。此《かく》の如くにして世界の主、蒼生《さうせい》の君と云ふべきなり。若《も》し夫《そ》れ其見《そのけん》小にして、一体一物の理を知らざるは、猶全身|痿《ゐ》して疾痛|※[#「やまいだれ+可」、163−11]痒《あやう》を覚えざるごとし。百世身を終るまで開悟すること能《あた》はず。亦|憐《あはれ》むべからずや。(中略)今日の如き、実に天地|開闢《かいびやく》以来興治の機運なるが故に、海外の諸国、天理の自然に基き、開悟発明、文化の域に至らむとする者少からず。唯日本、※[#「くさかんむり/最」、第4水準2−86−82]爾《さいじ》たる孤島に拠《よつ》て、(中略)行ふこと能はず。其の亡滅を取ること必せり。速《すみやか》に固陋積弊《ころうせきへい》の大害を攘除《じやうぢよ》し、天地無窮の大意に基き、偏見を看破し、宇宙第一の国とならむことを欲せずんばあるべからず。此の如き理を推窮せば、遂に大活眼《だいくわつがん》の域に至らしむる者|乎《か》。丁卯《ひのとう》三月南窓下偶書、小楠。」
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