「》し、所謂《いはゆる》万機一新の朝廷の措置に、動《やゝ》もすれば因循の形迹《けいせき》が見《あらは》れ、外国人が分外《ぶんぐわい》の尊敬を受けるのを慊《あきたら》ぬことに思つた。それは議定《ぎぢやう》参与の人々の間には、初から開国の下心があつて、それが漸《やうや》く施政の上に発露して来たからである。
或る日二人は相談して、藩籍を脱して京都に上ることにした。偕《とも》に輦轂《れんこく》の下《もと》に住んで、親しく政府の施設を見ようと云ふのである。二人の心底には、秕政《ひせい》の根本を窮《きは》めて、君側《くんそく》の奸《かん》を発見したら、直《たゞ》ちにこれを除かうと云ふ企図が、早くも此時から萌《きざ》してゐた。
二人は京都に出た。さて議定参与の中で、誰が洋夷に心を傾けてゐるかと探つて見た。其時二人の目に奸人の巨魁《きよくわい》として映じたのは、三月に徴士《ちようし》となつて熊本から入京し、制度局の判事を経て、参与に進んだ横井平四郎であつた。
横井は久しく越前侯|松平慶永《まつだひらよしなが》の親任を受けてゐて、公武合体論を唱へ、慶永に開国の策を献じた男である。其外《そのほか》大
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