心持がした。
 流行る人の處へは猫も杓子も尋ねて行く。何も私が尋ねて行かなくても好いと思ふ。かういふ考も、私を逢ひたい人に逢はせないでしまふ一の原因になつてゐる。
 中江篤介君なんぞは、先方が一度私を料理屋に呼んで馳走をしてくれたことがあるのに、私は一度も尋ねて行つたことがない。それが不治の病になつたと聞いて、私はすぐに行きたいと思つた。そのうちに一年有半の大評判で、知らない人がぞろ/\慰問に出掛けるやうになつた。私はとう/\行かずにしまつた。尾崎徳太郎君も私の内で雲中語といふ合評をする席へ、一度來てくれたことがある。これも不治の病になつた。今度は私も奮發して、横寺町の二階へ逢ひに行つた。此人は色の淺黒い、氣の利いた好男子で、不斷身綺麗にしてゐる人のやうに思つてゐたが、病氣の診斷が極まつて餘程立つてからであつたにも拘はらず、果して少しも病人臭くはしてゐなかつた。愉快に話をした。菓子を出して殘念ながらお相伴は出來ないと云つた。私は今でも、あの時行つて逢つて置いて好かつたと思つてゐる。
 話が横道に這入つたが、長谷川辰之助君を尋ねることは思ひながら出來ずにゐて、月日が立つたのである。
 併
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