に目食《めく》わせをした。女房は銚子を忙《せわ》しげに受け取って、女中に「用があればベルを鳴らすよ、ちりんちりんを鳴らすよ、あっちへ行ってお出《いで》」と云って、障子を締めた。
新聞記者は詞《ことば》を続《つ》いだ。「それは好《い》いが、先生自分で鞭《むち》を持って、ひゅあひゅあしょあしょあとかなんとか云って、ぬかるみ道を前進しようとしたところが、騾馬《らば》やら、驢馬《ろば》やら、ちっぽけな牛やらが、ちっとも言うことを聞かないで、綱がこんがらかって、高梁《こうりゃん》の切株だらけの畑中に立往生をしたのは、滑稽《こっけい》だったね。」記者は主人の顔をじろりと見た。
主人は苦笑をして、酒をちびりちびり飲んでいる。
通訳あがりの男は、何か思い出して舌舐《したなめ》ずりをした。「お蔭で我々が久し振に大牢《たいろう》の味《あじわ》いに有り附いたのだ。酒は幾らでも飲ませてくれたし、あの時位僕は愉快だった事は無いよ。なんにしろ、兵站《へいたん》にはあんまり御馳走《ごちそう》のあったことはないからなあ。」
主人は短い笑声を漏らした。「君は酒と肉さえあれば満足しているのだから、風流だね。」
「
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