つた。雨戸がこはれると、火の附いた障子が、燃《も》えながら庭へ落ちた。死骸らしい物のある奥の壁際《かべぎは》に、平八郎は鞘《さや》を払つた脇差《わきざし》を持つて立つてゐたが、踏み込んだ捕手《とりて》を見て、其|刃《やいば》を横に吭《のど》に突き立て、引き抜いて捕手の方へ投げた。
投げた脇差は、傍輩《はうばい》と一しよに半棒で火を払ひ除《の》けてゐる菊地弥六の頭を越し、襟《えり》から袖をかすつて、半棒に触れ、少し切り込んでけし飛んだ。弥六の襟、袖、手首には、灑《そゝ》ぎ掛けたやうに血が附いた。
火は次第に燃えひろがつた。捕手は皆|焔《ほのほ》を避けて、板塀の戸口から表庭《おもてには》へ出た。
弥六は脇差を投げ附けられたことを鉄平に話した。鉄平が「そんなら庭にあるだらう」と云つて、弥六を連れて戸口に往つて見ると、四五尺ばかり先に脇差は落ちてゐる。併《しか》し火が強くて取りに往くことが出来ない。そこへ最初案内に立つた同心が来て、「わたくし共の木刀には鍔《つば》がありますから、引つ掛けて掻《か》き寄せませう」と云つた。脇差は旨《うま》く掻き寄せられた。柄《つか》は茶糸巻《ちやいとまき》
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