中の私《わたくし》を訐《あば》くに敏《びん》なるものである。九郎右衛門は一しよに召《め》し捕《と》られたいと云ふ。それは責《せめ》を引く潔《いさぎよ》い心ではなくて、与党を怖《おそ》れ、世間を憚《はゞか》る臆病である。又自殺するかも知れぬと云ふ。それは覚束《おぼつか》ない。自殺することが出来るなら、なぜ先《ま》づ自殺して後に訴状を貽《のこ》さうとはしない。又牢に入れてくれるなと云ふ。大阪の牢屋から生きて還《かへ》るものゝ少いのは公然の秘密だから、病体でなくても、入《い》らずに済《す》めば入《い》るまいとする筈である。横着者《わうちやくもの》だなとは思つたが、役馴《やくな》れた堀は、公儀《こうぎ》のお役に立つ返忠《かへりちゆう》のものを周章《しうしやう》の間にも非難しようとはしない。家老に言ひ付けて、少年二人を目通《めどほ》りへ出させた。
「吉見英太郎と云ふのはお前か。」
「はい。」怜悧《れいり》らしい目を見張つて、存外|怯《おく》れた様子もなく堀を仰《あふ》ぎ視《み》た。
「父九郎右衛門は病気で寝てをるのぢやな。」
「風邪《ふうじや》の跡《あと》で持病の疝痛《せんつう》痔疾《ぢしつ》が
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