番場《ばんば》で跡部に分れて、東町奉行所へ帰つた。
九、八軒屋、新築地、下寺町
梅田の挽《ひ》かせて行く大筒《おほづゝ》を、坂本が見付けた時、平八郎はまだ淡路町二丁目の往来の四辻に近い処に立ち止まつてゐた。同勢は見る/\耗《へ》つて、大筒《おほづゝ》の車を挽《ひ》く人足《にんそく》にも事を闕《か》くやうになつて来る。坂本等の銃声が聞えはじめてからは、同勢が殆《ほとんど》無節制の状態に陥《おちい》り掛かる。もう射撃をするにも、号令には依らずに、人々《ひと/″\》勝手に射撃する。平八郎は暫《しばら》くそれを見てゐたが、重立《おもだ》つた人々を呼び集めて、「もう働きもこれまでぢや、好く今まで踏みこたへてゐてくれた、銘々《めい/\》此場を立《た》ち退《の》いて、然《しか》るべく処決せられい」と云ひ渡した。
集まつてゐた十二人は、格之助、白井、橋本、渡辺、瀬田、庄司、茨田《いばらた》、高橋、父|柏岡《かしはをか》、西村、杉山と瀬田の若党|植松《うゑまつ》とであつたが、平八郎の詞《ことば》を聞いて、皆顔を見合せて黙つてゐた。瀬田が進み出て、「我々はどこまでもお供をしますが、御趣意《ご
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