けたので、堀は会所を出て、内平野町《うちひらのまち》で跡部に逢つた。そして二人相談した上、堀は跡部の手にゐた脇、石川、米倉の三人を借りて先手《さきて》を命じ、天神橋筋《てんじんばしすぢ》を南へ橋詰町《はしづめまち》迄出て、西に折れて本町橋《ほんまちばし》を渡つた。これは本町を西に進んで、迂廻《うくわい》して敵の退路を絶たうと云ふ計画であつた。併《しか》し一手《ひとて》のものが悉《ことごと》く跡《あと》へ/\とすざるので、脇等三人との間が切れる。人数もぽつ/\耗《へ》つて、本町堺筋《ほんまちさかひすぢ》では十三四人になつてしまふ。そのうち瓦町《かはらまち》と淡路町との間で鉄砲を打ち合ふのを見て、やう/\堺筋《さかひすぢ》を北へ、衝突のあつた処に駆け付けたのである。
 跡部は堀と一しよに淡路町を西へ踏み出して見たが、もう敵らしいものの影も見えない。そこで本町橋の東詰《ひがしづめ》まで引き上げて、二|人《にん》は袂《たもと》を分ち、堀は石川と米倉とを借りて、西町奉行所へ連れて帰り、跡部は城へ這入《はひ》つた。坂本、本多、蒲生《がまふ》、柴田、脇|並《ならび》に同心等は、大手前《おほてまへ》の
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