島町通を西へ進んで、同町二丁目の角から、内骨屋町筋《うちほねやまちすぢ》を南に折れ、それから内平野町《うちひらのまち》へ出て、再び西へ曲らうとした。
 此時大塩の同勢は、高麗橋を渡つた平八郎父子の手と、今橋を渡つた瀬田の手とが東横堀川《ひがしよこぼりがは》の東河岸《ひがしかし》に落ち合つて、南へ内平野町《うちひらのまち》まで押して行き、米店《こめみせ》数軒に火を掛けて平野橋《ひらのばし》の東詰《ひがしづめ》に引き上げてゐた。さうすると内骨屋町筋《うちほねやまちすぢ》から、神明《しんめい》の社《やしろ》の角をこつちへ曲がつて来る跡部《あとべ》の纏《まとひ》が見えた。二町足らず隔たつた纏《まとひ》を目当《めあて》に、格之助は木筒《きづゝ》を打たせた。
 跡部の手は停止した。与力|本多《ほんだ》や同心|山崎弥四郎《やまざきやしらう》が、坂本に「打ちませうか/\」と催促した。
 坂本は敵が見えぬので、「待て/\」と制しながら、神明《しんめい》の社《やしろ》の角に立つて見てゐると、やう/\烟の中に木筒《きづゝ》の口が現れた。「さあ、打て」と云つて、坂本は待ち構へた部下と一しよに小筒《こづゝ》をつ
前へ 次へ
全125ページ中58ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
森 鴎外 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング