見て、ばら/\と散つた。
 北浜二丁目の辻に立つて、平八郎は同勢の渡つてしまふのを待つた。そのうち時刻は正午になつた。
 方略の第二段に襲撃を加へることにしてある大阪富豪の家々は、北船場《きたせんば》に簇《むら》がつてゐるので、もう悉《ことごと》く指顧《しこ》の間《あひだ》にある。平八郎は倅《せがれ》格之助、瀬田以下の重立《おもだ》つた人々を呼んで、手筈《てはず》の通《とほり》に取り掛かれと命じた。北側の今橋筋《いまばしすぢ》には鴻池屋《こうのいけや》善右衛門、同《おなじく》庄兵衛、同善五郎、天王寺屋五兵衛、平野屋五兵衛等の大商人《おほしやうにん》がゐる。南側の高麗橋筋《かうらいばしすぢ》には三井、岩城桝屋《いはきますや》等の大店《おほみせ》がある。誰がどこに向ふと云ふこと、どう脅喝《けふかつ》してどう談判すると云ふこと、取り出した金銭米穀はどう取り扱ふと云ふこと抔《など》は、一々《いち/\》方略に取《と》り極《き》めてあつたので、ここでも為事《しごと》は自然に発展した。只|銭穀《せんこく》の取扱《とりあつかひ》だけは全く予定した所と相違して、雑人共《ざふにんども》は身に着《つけ》られ
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