が二百六十一町、天満組が百九町ある。予定通にすると、けふは天満組を巡見して、最後に東照宮《とうせうぐう》附近の与力町《よりきまち》に出て、夕《ゆふ》七つ時《どき》には天満橋筋|長柄町《ながらまち》を東に入《い》る北側の、迎方《むかへかた》東組与力|朝岡助之丞《あさをかすけのじよう》が屋敷で休息するのであつた。迎方《むかへかた》とは新任の奉行を迎へに江戸に往つて、町与力《まちよりき》同心《どうしん》の総代として祝詞《しゆくし》を述べ、引き続いて其奉行の在勤中、手許《てもと》の用を達《た》す与力一|人《にん》同心二|人《にん》で、朝岡は其与力である。然《しか》るにきのふの御用日の朝、月番|跡部《あとべ》の東町奉行所へ立会《たちあひ》に往くと、其前日十七日の夜東組同心|平山助次郎《ひらやますけじらう》と云ふものの密訴《みつそ》の事を聞せられた。一大事と云ふ詞《ことば》が堀の耳を打つたのは沁栫sこのとき》が始《はじめ》であつた。それからはどんな事が起つて来るかと、前晩《ぜんばん》も殆《ほとんど》寝ずに心配してゐる。今|中泉《なかいづみ》が一大事の訴状を持つて二人の少年が来たと云ふのを聞くと、堀
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