る。東町奉行|跡部山城守良弼《あとべやましろのかみよしすけ》も去年四月に現職に任ぜられて、七月に到着したのだから、まだ大阪には半年しかをらぬが、兎《と》に角《かく》一|日《じつ》の長《ちやう》があるので、堀は引《ひ》き廻《まは》して貰《もら》ふと云ふ風になつてゐる。町奉行になつて大阪に来たものは、初入式《しよにふしき》と云つて、前からゐる町奉行と一しよに三度に分けて市中を巡見する。初度《しよど》が北組《きたぐみ》、二度目が南組、三度目が天満組《てんまぐみ》である。北組、南組とは大手前《おほてまへ》は本町通《ほんまちどほり》北側、船場《せんば》は安土町通《あづちまちどほり》、西横堀《にしよこぼり》以西は神田町通《かんだまちどほり》を界《さかひ》にして、市中を二分してあるのである。天満組《てんまぐみ》とは北組の北界《きたざかひ》になつてゐる大川《おほかは》より更に北方に当る地域で、東は材木蔵《ざいもくぐら》から西は堂島《だうじま》の米市場《こめいちば》までの間、天満《てんま》の青物市場《あをものいちば》、天満宮《てんまんぐう》、総会所《そうくわいしよ》等を含んでゐる。北組が二百五十町、南組
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