と、父が申しました。」
「ふん。さうか。」門番は八十次郎《やそじらう》の方に向いた。「お前はなぜ附いて来たのか。」
「大切な事だから、間違《まちがひ》の無いやうに二人《ふたり》で往《い》けと、吉見のをぢさんが言ひ附けました。」
「ふん。お前は河合と言つたな。お前の親父様《おやぢさま》は承知してお前をよこしたのかい。」
「父は正月の二十七日に出た切《きり》、帰つて来ません。」
「さうか。」
門番は二人の若者に対して、こんな問答をした。吉見の父が少年二人を密訴《みつそ》に出したので、門番も猜疑心《さいぎしん》を起さずに応対して、却《かへ》つて運びが好かつた。門番の聞き取つた所を、当番のものが中泉《なかいづみ》に届ける。中泉が堀に申し上げる。間もなく堀の指図で、中泉が二人を長屋に呼び入れて、一応取り調べた上|訴状《そじやう》を受け取つた。
堀は前役《ぜんやく》矢部駿河守定謙《やべするがのかみさだかた》の後《のち》を襲《つ》いで、去年十一月に西町奉行になつて、やう/\今月二日に到着した。東西の町奉行は月番交代《つきばんかうたい》をして職務を行《おこな》つてゐて、今月は堀が非番《ひばん》であ
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