力朝岡|助之丞《すけのじよう》と西組与力近藤三右衛門とが応接して、大筒《おほづゝ》を用意して貰《もら》ひたいと云つた。坂本はそれまでの事には及ばぬと思ひ、又指図の区々《まち/\》なのを不平に思つたが、それでも馬一頭を借りて蒲生《がまふ》を乗せて、大筒を取り寄せさせに、玉造口|定番所《ぢやうばんしよ》へ遣つた。昼|四《よ》つ時《どき》に跡部が坂本を引見した。そして坂本を書院の庭に連れて出て、防備の相談をした。坂本は大川に面した北手《きたて》の展望を害する梅の木を伐《き》ること、島町《しままち》に面した南手の控柱《ひかへばしら》と松の木とに丸太を結び附けて、武者走《むしやばしり》の板をわたすことを建議した。混雑の中で、跡部の指図は少しも行はれない。坂本は部下の同心に工事を命じて、自分でそれを見張つてゐた。
坂本が防備の工事をしてゐるうちに、跡部は大塩の一行が長柄町《ながらまち》から南へ迂廻《うくわい》したことを聞いた。そして杣人足《そまにんそく》の一組に天神橋《てんじんばし》と難波橋《なんばばし[#「なんばばし」は底本では「なんぱばし」と誤記]》との橋板をこはせと言ひ付けた。
坂本の使
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