。先《ま》づ主人の出勤した跡《あと》の、向屋敷《むかうやしき》朝岡の門に大筒の第一発を打ち込んで、天満橋筋《てんまばしすぢ》の長柄町《ながらまち》に出て、南へ源八町《げんぱちまち》まで進んで、与力町《よりきまち》を西へ折れた。これは城と東町奉行所とに接してゐる天満橋を避けて、迂回《うくわい》して船場《せんば》に向はうとするのである。
六、坂本鉉之助
東町奉行所で小泉を殺し、瀬田を取り逃がした所へ、堀が部下の与力《よりき》同心《どうしん》を随へて来た。跡部《あとべ》は堀と相談して、明《あけ》六つ時《どき》にやう/\三箇条の手配《てくばり》をした。鈴木町《すゞきまち》の代官|根本善左衛門《ねもとぜんざゑもん》に近郷《きんがう》の取締《とりしまり》を托したのが一つ。谷町《たにまち》の代官池田|岩之丞《いはのじよう》に天満《てんま》の東照宮、建国寺《けんこくじ》方面の防備を托したのが二つ。平八郎の母の兄、東組与力|大西与五郎《おほにしよごらう》が病気引《びやうきびき》をしてゐる所へ使《つかひ》を遣《や》つて、甥《をひ》平八郎に切腹させるか、刺し違へて死ぬるかのうちを選べと云はせたの
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