く。屋敷中に立ち別れた与党の人々は、受持々々《うけもち/\》の為事《しごと》をする。時々書斎の入口まで来て、今宇津木を討《う》ち果《はた》したとか、今|奥庭《おくには》に積み上げた家財に火を掛けたとか、知らせるものがあるが、其度毎《そのたびごと》に平八郎は只《ただ》一目《ひとめ》そつちを見る丈《だけ》である。
 さていよ/\勢揃《せいぞろひ》をすることになつた。場所は兼《かね》て東照宮の境内《けいだい》を使ふことにしてある。そこへ出る時人々は始て非常口の錠前《ぢやうまへ》の開《あ》いてゐたのを知つた。行列の真《ま》つ先《さき》に押し立てたのは救民と書いた四|半《はん》の旗《はた》である。次に中に天照皇大神宮《てんせうくわうだいじんぐう》、右に湯武両聖王《たうぶりやうせいわう》、左に八幡大菩薩《はちまんだいぼさつ》と書いた旗、五七の桐《きり》に二つ引《びき》の旗を立てゝ行く。次に木筒《きづゝ》が二|挺《ちやう》行く。次は大井と庄司とで各《おの/\》小筒《こづゝ》を持つ。次に格之助が着込野袴《きごみのばかま》で、白木綿《しろもめん》の鉢巻《はちまき》を締《し》めて行く。下辻村《しもつじむら
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