りで減じはせぬ。殊《こと》に去年から与力内山を使つて東町奉行|跡部《あとべ》の遣《や》つてゐる為事《しごと》が気に食はぬ。幕命《ばくめい》によつて江戸へ米を廻漕《くわいさう》するのは好い。併《しか》し些《すこ》しの米を京都に輸《おく》ることをも拒《こば》んで、細民《さいみん》が大阪へ小買《こがひ》に出ると、捕縛《ほばく》するのは何事だ。己《おれ》は王道の大体を学んで、功利の末技を知らぬ。上《かみ》の驕奢《けうしや》と下《しも》の疲弊《ひへい》とがこれまでになツたのを見ては、己にも策の施すべきものが無い。併し理を以て推《お》せば、これが人世《じんせい》必然の勢《いきほひ》だとして旁看《ばうかん》するか、町奉行以下諸役人や市中の富豪に進んで救済の法を講ぜさせるか、諸役人を誅《ちゆう》し富豪を脅《おびやか》して其|私蓄《しちく》を散ずるかの三つより外《ほか》あるまい。己《おれ》は此不平に甘んじて旁看《ばうかん》してはをられぬ。己は諸役人や富豪が大阪のために謀《はか》つてくれようとも信ぜぬ。己はとう/\誅伐《ちゆうばつ》と脅迫《けふはく》とによつて事を済《な》さうと思ひ立つた。鹿台《ろくたい》
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