立ち寄つて二十一日には彦根へ着いた。
五、門出
瀬田済之助《せたせいのすけ》が東町奉行所の危急を逃《のが》れて、大塩の屋敷へ駆け込んだのは、明《あけ》六つを少し過ぎた時であつた。
書斎の襖《ふすま》をあけて見ると、ゆうべ泊つた八人の与党《よたう》、その外《ほか》中船場町《なかせんばまち》の医師の倅《せがれ》で僅《わづか》に十四歳になる松本|隣太夫《りんたいふ》、天満《てんま》五丁目の商人阿部|長助《ちやうすけ》、摂津《せつつ》沢上江村《さはかみえむら》の百姓|上田孝太郎《うえだかうたらう》、河内《かはち》門真三番村の百姓|高橋九右衛門《たかはしくゑもん》、河内|弓削村《ゆげむら》の百姓|西村利三郎《にしむらりさぶらう》、河内|尊延寺村《そんえんじむら》の百姓|深尾才次郎《ふかをさいじらう》、播磨《はりま》西村の百姓|堀井儀三郎《ほりゐぎさぶらう》、近江《あふみ》小川村の医師|志村力之助《しむらりきのすけ》、大井、安田等に取り巻かれて、平八郎は茵《しとね》の上に端坐《たんざ》してゐた。
身《み》の丈《たけ》五尺五六寸の、面長《おもなが》な、色の白い男で、四十五歳にしては老
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